サンデル教授に異議あり 追記あり

昨晩、NHKの番組
  「マイケル・サンデル 究極の選択」
   大震災特別講義 
  http://www.nhk.or.jp/harvard/index.html
を見た。

この番組でサンデル教授は、原子力の将来について、
以下の二つのシナリオを提示して、どちらを選択するか?
と問うた。

(1)原子力のリスクを最小限にして依存を続ける。

(2)生活水準を下げてでも原子力への依存を減らす。
   (もしくは原子力を全廃する)

私は、この問い(2択)はナンセンスだと思う。
何故ならば、この問いは、
 「生活水準を維持する為には原子力が必要不可欠だ」
ということを前提にしているからだ。
しかし、この前提がそもそも間違っている
というか事実ではない。
したがって問いそのものが意味を持たない。
要するに、第三のシナリオ、
(3)生活水準を下げずに原子力を全廃する
これが存在しうる。

しかし、この第三のシナリオを提示してしまうと、
ジレンマそのものが解消してしまって、
議論が成り立たなくなってしまう。
だから、第三のシナリオを言うのはルール違反なのかもしれないが、
第三のシナリオが存在しうるのは、はっきりとした事実なのだ。

以下に、4月16日の北海道新聞のニュースを引用する。
 「再生エネが10年に原発を逆転 米シンクタンクが報告」
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/international/286420.html
 【ワシントン共同】2010年の世界の発電容量は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーが原発を初めて逆転したとする世界の原子力産業に関する報告書を、米シンクタンク「ワールドウオッチ研究所」が15日までにまとめた。

 原発は、安全規制が厳しくなったことや建設費用の増加で1980年代後半から伸び悩み、2010年の発電容量は3億7500万キロワット。一方、再生可能エネルギーは地球温暖化対策で注目されて急激に増加し、風力と太陽、バイオマス、小規模水力の合計は3億8100万キロワットになり、初めて原発を上回った。
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しかし、それよりも私が驚いたのは、
(1)のシナリオを選択した人が日本で6/12、上海で5/8、
ボストンに至っては8/8だったことだ。

私もけっして専門家ではないけれど、
彼らは原子力発電というものがどういう物なのか
まったく何も知らなすぎる。

リスクと恩恵を天秤にかけて、
 「さぁ、どっちを取りますか?」
という問題を討論するためには、
「リスク」、「恩恵」それぞれについて
正確な知識を共有していることが
必要不可欠な条件ではなかろうか?

参加者で作家の石田衣良氏(シナリオ(1)を選択)は、
 「原子力から手を引くことは人類が進歩を諦めて
  うずくまってしまうことだ」
という主旨の発言をしてました・・・orz

おそらく、原子力を最先端技術、夢の未来技術だとでも
思っているんだろうなぁ・・・orz

インテリ知識人の作家先生がこの有様では、
一般の人の認識は、もっと非道いに違いない・・・orz

そこで以下に、私がmixiの日記に書いたことを再掲する

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「原子力発電のダメさを考える」

今日は原子力発電のダメさについて、
安全性は脇において、熱効率の観点から
ちょっと考えてみる。

原子力発電と一言でいっても、核エネルギーから
直接電気を取り出せるわけではない。
核分裂反応のエネルギーの多くは、
熱エネルギーになる。
その熱で水を沸騰させて蒸気で羽根車(タービン)を回して、
発電機を動かして電気を作り出す。
基本的な構造はワットが発明した蒸気機関と変わらない。
その熱効率はせいぜい頑張っても30%程度
つまり、発生した熱エネルギーの30%ほどしか
電気に変換することは出来ない。

それでは、あとの70%の熱エネルギーはどうなるのか?

余分な熱のほとんどは、海水を使って冷却される。
つまり、海の水を温めるのに使われる。
案外、「エルニーニョ」とか「ラニーニャ」とか
世界の異常気象の一因に原子力発電がなっているの
かもしれないね。

それなのに、
 「原子力発電はCO2を出さないから
  地球温暖化を防いで環境に優しい」
などと宣伝するのだからタチが悪い。

さらに、私も今回の事故で知ったのだけれども、
使用済核燃料というのは、何年ものあいだ、
水を循環させて冷やし続けなければいけない。
その循環ポンプを回すのにも電気が使われる。
今回の事故は、そのための電源が失われたことで起きた。

こういう余分に消費するエネルギーも勘定に入れると、
原子力発電の熱効率は20%もあるかどうか
なってしまうんじゃないかな。

近年考案された「コジェネレーション」という
エネルギー供給システムがある。
これは、発電時の排熱を利用して給湯や暖房に
利用しようという考えかた。
これだと総合的な熱効率は70%ほどにできるらしい。
だけど原子力発電でこの方法は使えない。
誰も放射能で汚染されたお湯を使ったお風呂に
入りたいとは思わないだろう。
(「放射線は体にいい」とおっしゃる東大の稲教授などは
 喜んで入るかもしれないが・・・)

結論として、原子力発電は安全性の問題ばかりでなく、
経済性、熱効率の観点から見てもダメダメな発電方法なんです。

事故の賠償を国がするということは、その費用に国民の税金が
使われるということです。
東京電力に賠償させるにしても、その経費は電気料金に上乗せされる。

結局、つけは私たちに跳ね返ってきます。

 「原子力の平和利用」
 「原子力発電は絶対安全」
 「原子力発電は環境に優しい」
 「原子力発電は効率がよい」
 「原子力発電は発電単価が安い」
 「原子力発電を止めたら電気が足りなくなる」

もう、これ以上こうした宣伝文句、嘘に惑わされずに
「脱原発」に大きく舵をきらなければいけません。

さもないと、より大きなつけを、
未来の世代に回すことになりますよ。

そんな警告を発してみる ありぎりす であった。

^^^^^ mixi再掲ここまで ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

つまり、
 原子力発電は、最先端でも何でもない
 危険で、不経済で、非効率で、時代遅れの
 ダメダメな発電方法なんです。


さらに、リスクについての理解も低いです。
番組の中では話題になりませんでしたが、
放射線は、私たちの遺伝子にダメージを与えます。
つまり、一旦、私たちの遺伝子がダメージを負ったら、
私たちの子や孫に、大きな障害となって、
引き継がれていく、ということです。

そして、原子力発電というのは、たとえ事故を
起こさなかったとしても、
常に「生贄」を必要とする
発電システムだということです。

機械というものは、必ず保守・点検を必要とします。
結局それは人間がやるしかないのです。
原発作業者は、確実に被爆します。
mixiのコメ欄で教えてもらった以下のサイトを
読んでみて下さい。
二十年間、原発の現場で働いた方(故人)の話です。
 「原発がどんなものか知ってほしい」
 https://iam-k.com/HIRAI/pageall.html

もう一つ、こちらもご紹介
 「福島原発事故に思う」
  安斎育郎(安斎科学・平和事務所 所長/国際平和ミュージアム 名誉館長)
 「福島原発事故についての緊急建言」
 http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/04/blog-post_12.html
原発を推進してきた専門家たちが、
 「はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、
  今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。」
と書き出し、
 「状況はかなり深刻で、広範な放射能汚染の可能性を排除できない。
  国内の知識・経験を総動員する必要がある」
として事態の深刻さを訴えています。

今回の福島原発の事故が、いかに深刻で危機的な状況にあるのか、
いかに収束させるのが困難で長期化するものなのか、理解して下さい。


以上のことから、(1)のシナリオなんて論外で、
(3)のシナリオを目指すべきであり、
それは実際に可能なことなんです。
しかし、(1)のシナリオを選択する人が過半数という
現状では、なかなか覚束ないなぁ・・・



話をサンデル教授の番組にもどすと、
ミュージシャンの高橋ジョージさんは
(2)のシナリオを選択して、
 「必ずしも利便性=幸福ではないだろう」
という主旨の発言をしていました。
これは、「幸福」の本質を問うもので、
なかなか深い意味があります、見直しました、
というか、ちょっと救われた気持ちになりました。

この期に及んでも、(1)のシナリオを選択する人達が
思ったよりも多くって、(過半数で)
ショックを受けた ありぎりす であった。


追記:4月18日14:17
 急激にアクセスが増えたので驚いたのだけれど、
 どうやら、はてブにブックマークされたせいらしい。
 そのブックマークコメントを見ると、どうも
 サンデル教授をdisっているみたい・・・
 しかし、改めて書くまでもなく、このエントリの主旨は
 サンデル教授をdisることではありません。

 そして、サンデル教授はとても聡明な方です。
 シナリオ(2)を注意深く読むと、「生活水準を下げてでも」
 というのは、必ずしも「生活水準が下がる」ことを
 意味しないことに気づきます。
 ですから私が書いたシナリオ(3)は(2)に含まれる、
 というか隠されています。
 サンデル教授はズルイなぁ、引っかかっちゃったよぉ(^^;

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